NHKの中学受験の特集に作家の朝比奈あすかさんが出ていました。
朝比奈あすかさんは、私立の中学受験を経験した親ならだれでも知っていることでしょう。
私立の入試問題によく起用されるため、“中学受験頻出作家”と言われています。
番組内で紹介された本を何気なく読んだのですが……これはもう中学受験に関わる全員に読んでほしい!
二月の勝者を読んでいる場合ではありません。
それよりも朝比奈あすかさんの「翼の翼」を読んでいただきたい!
「翼の翼」は、中学受検を題材とした小説です。
もう最初の数ページで「絶対に何かが起こる」予感がザワザワとして「これ……最後まで読めるだろうか?」という不安に駆られました。
登場人物と、情景にリアリティがありすぎる……
それもそのはず。
朝比奈さんは2人のお子さん(姉弟)の中学受験を経験されています。
執筆にあたって追加の取材はしなかったということですので、ご本人が「中学受験に熱中していた」と言う通り「中受沼の住民」であったのでしょう。
だから巻き起こることにしても、登場人物にしても、「うわ、いるわーこういう人」だったり、時には「これ、私のことだ……」だったり、とにかく感情を揺さぶられながら読むことになります。
最初に中学受験に関わる全員に読んでほしいと書きましたが、その理由は「受験がこれからの方」と、「受験を終えた方」では違いがあります。
まず、「受験がこれから」という方におすすめの理由は単純です。
本の中では、「中受を経験した親なら絶対に聞いたことがあるようなトラブル」が次々に巻き起こります。
それを先に知っておくことで、回避してほしいのです。
ニュースや雑誌で見聞きする話は、やはりどこか他人事。
本で感情移入しながら自分のペースで読んでいくと感じ方が全く違います。
「受験を終えた」方におすすめする理由は、受験で感じた様々な感情を思い返せるからです。
本では、主人公(受験生翼の母)円佳の心情がよく描かれます。
細かい描写の「心にチクっと刺さる」部分。そこを思い出してほしい。
クラス落ちを責めたり、言ってはいけないとわかっていながら、傷つけるようなことを言ってしまったことは、すぐに思い出せるかもしれません。
もっと奥に秘めた部分。
他の親子に嫉妬をしたり
子供の意見を聞いている風で、自分の意見に沿うように誘導したり
「子供のため」と称してやっていたことが、「自分のため」であったかもしれない。
円佳や翼を通じて、「あぁ、私もそうだった」と、思い出したくない部分も思い返されるはずです。
我が家の場合、本に登場するようなおおごとはありませんでしたが、円佳に自分を重ねて様々なこと(自分の嫌な部分)を思い出しました。
ただ子どもが我慢強かっただけで、もしかしたらこの本のようなことも起きたのかもしれない。
「志望校に合格した」という事実で、自分がやってきたことが正しかったように誤解してはいけない。
合格という部分だけを美化してすべてを成功体験に塗り替えてはいけない。
本を読みながら、そんなことを考えていました。
自分勝手な親に翻弄されながら頑張った子どもたちには、なおさらリスペクトしかありません。
6年生の受験が終われば、中学受験界隈は成功体験と合格記であふれます。
決してその華やかな誰かと比べるのではなく、ぜひ「あなたの家族の受験のかたち」を築いていって下さい。
受験を終えた方は、『翼の翼』を読むことであの頃を正しく振り返ることができます。
様々な感情があふれるため読んだ後にちょっと疲れますが、中学受験に関わる全ての親に読んでいただきたいです。